日医工ジャーナル ダイジェスト
Vol.51 No.430 2025.2-3 ダイジェスト
『医療機器産業ビジョン2024』から見えてくる日本の業界の在り方
〜産業成長は研究開発投資と投資回収の循環から〜
渡辺 信彦 氏
経済産業省 商務サービスグループ
医療・福祉機器産業室 室長
−−今後、医療機器産業が高付加価値産業として成長していくために必要なこととは何でしょうか?
【渡辺】これからの日本の医療機器産業には、「イノベーション創出のための研究開発投資」と「グローバル展開による投資回収」という2つの柱が必要です。この2つが上手く噛み合い、循環することによって産業の成長が達成されると考えています。それを実現するためには、米国市場への戦略的な展開が重要となるでしょう。その成功例を生み出すためには、米国での市場獲得に乗り出そうとしている企業への資金援助と、海外展開に必要なネットワーク構築の支援が不可欠となります。
国内でイノベーションを生み出す環境を構築するには、AI などのデジタル技術を用いた医療機器の開発と市場形成、さらにスタートアップ企業によるイノベーションの創出などが重要な要素となります。今後は、医療データ利活用基盤の構築や臨床的・経済的な有用性の実証支援および大手企業とスタートアップの連携強化が必要になってくるでしょう。
高付加価値産業であるからには、イノベーションを創出するだけでなく、投資した分を回収しなければなりません。世界市場で日本の医療機器メーカーの占める割合が5~7%という状況の中で、回収できる高付加価値のイノベーションは限られているのが現状です。他国の成長も取り込まないと、十分な回収は期待できません。
海外ではオープンイノベーションが進んでいます。日本も同様に、医療機器産業がさらなる成長を遂げるためには、外部のイノベーションと積極的に連携して「オープンイノベーション」が起こる環境を創っていく必要があります。
スタートアップ企業はイノベーションの創出には長けていますが、販売に関する知見は持っていません。販売するにはそれなりの経験と知識、様々なチャネルが必要です。販売力は医療機器メーカーの本領です。イノベーションによって生まれたものは、様々な販売チャネルを持つ医療機器メーカーによって、医療現場に供給されていくことになります。それぞれの役割分担を活かす環境をどうやって創るか、それが我々の仕事だと思っています。
海外の患者を診療する医療インバウンドへの期待
〜病院経営の安定化に寄与する医療ツーリズム〜
伊藤 寛倫 氏
公益財団法人がん研究会 有明病院 トータルケアセンター 副部長/
消化器センター 肝胆膵外科 医長/国際医療室 室長
−−外国人患者さんは自由診療ですので、日本人と同じサービスでも治療費は高額となります。患者さんのホスピタリティへの満足度はどうですか。
【伊藤】外国人患者さんの場合、治療費は国で定められた診療報酬の4倍、セカンドオピニオンに掛かる費用は11万円です。入院には特別病棟を使用していただきますが、部屋の価格は日本人と同じです。外来診療では日本人患者さんと同じ待合室で、同じ時間帯にお待ちいただきます。外国人患者さんは質問が多く時間がかかるため、診察の順番を後に回す場合があり、むしろ日本人より待ち時間が長くなることもあります。実際、外国人患者さんからの、外来における待ち時間へのクレームは多いです。日本人には我慢できる待ち時間でも、かなりの費用を負担している外国患者さんが不満に思うのは理解できます。彼らの満足度を上げるために、高額な価格に見合ったサービスをどう提供していくかは、今後の課題です。
−−医療ツーリズムの価格はサービスの価値で決まります。価格を上げるためには価値を上げるという発想の転換が必要ですね。
【伊藤】これまで国内の病院のほとんどは国民皆保険制度内で患者さんを診てきたので、“サービス”という意識はほとんどなかったと思います。しかし、医療を世界市場という視点で考えた場合、ライバルは日本の病院ではなく、米国のメイヨークリニックやクリーヴランドクリニックといった海外の大病院になります。そうした医療施設が提供するサービスに近づけなければなりません。しかし、日本の場合、それを収入が保険診療からに限られる同じ病室で提供するのは困難でしょう。外国人患者さん専門の医療施設を設け、そこで質の高い医療が提供できるのが理想ですが、あまり現実的ではありません。外国人患者さんにそれなりの治療費で納得してもらうには、例えば、外来診察の待ち時間や手術までの待機時間の短縮など、医療の質以外の部分で、付加価値をつけていかなければと考えています。
リクルート座談会 新卒採用編
国内医療機器業界の新卒採用をどのように考えるか(前編)
堀野 賢一郎 氏 専修大学 キャリアセンター事務部 次長(大学職業指導研究会 事務局長)
成澤 崇禎 氏 拓殖大学 就職キャリアセンター 就職部 就職課長(全国私立大学就職指導研究会 事務局長)
瀧野瀬 浩晃 氏 サクラファインテックジャパン株式会社 人事・総務部 部長
兒玉 友 氏 アトムメディカル株式会社 HRコネクテッド部 人事総務課 課長代理
相宮 直紀 氏 公益財団法人 医療機器センター 医機なび担当 主任
−−まず大学キャリアセンターの方にお聞きします。医療機器業界を含めたヘルスケア分野の企業からの求人状況についてお聞かせください。また、その求人に対する学生の反応はどうでしょうか。
【成澤】拓殖大学の場合、医療・ヘルスケア業界の求人はだいたい数100社ほどですが、医療機器に限定するとかなり少なくなります。本学の中心が文系学部であるためかもしれません。医療機器業界に対する認知度や興味の度合いは低く、応募する学生が少ないのが現状です。文系の学生にとって、医療機器業界は具体的な業務内容がイメージしにくく、自分のスキルや適性がどのように活かせるかが、わかりづらいためでしょう。より多くの学生が医療機器業界の可能性や魅力を知るには、企業と大学の連携が必要だと思います。
【堀野】専修大学の2023年度の求人数は全業種で約1万6,500件ありましたが、そのうち病院・医療関係は約480件で、医療機器製造販売企業は251件でした。実際に採用された学生は45名。医療業界は27名。4年次生の就職者3,500名の中の45名なのでだいぶ少ないですね。
−−学生に人気のある業界はどこでしょうか。
【堀野】求人数が業界によって均等ではないので一概には言えませんが、(数だけ見れば)IT業界でしょうか。ITといってもいろいろですが、本学ネットワーク情報学部の学生は情報学を専門に学びますので、多くの学生がIT専門企業に行きますし、他学部の学生もIT関連企業への就職は多いです。
【成澤】うちもIT企業ですね。あとは商社と食品です。
【堀野】本学も食品は人気です。文系でも商品開発に携われるのではないかと考えるようです。
日本初の国際医療機器展示会「Japan Health 2025」への期待
クリストファー・イブ 氏
インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社
代表取締役社長
石原 隼人 氏
インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社
ディレクター
−−Japan Health 2025が開催されるまでの経緯をお聞かせください。
【イブ】弊社は国内において年間約20件の展示会を開催しています。得意としているのはヘルスケア分野で『健康博覧会』をはじめ、『Care Show Japan』、『Medtec Japan』、『CPHI Japan』などを執り行っています。
私が以前から不思議に思っていたのは、なぜ日本では“総合的”なヘルスケアの展示会が開催されないのかということでした。海外では医療機器の大規模イベントが毎年催され、世界中の企業が市場参入やアライアンスなどを促進する場として活用しています。ヨーロッパではドイツのデュッセルドルフで行われる『Medica』、中東だったらアラブ首長国連邦のドバイの『Arab Health』、中国では上海で開催される『中国国際医療機器展(CMEF)』、韓国のソウルでも『国際医療機器・病院設備展示会(KIMES)』といった大きな国際展示会が行われています。
私は、日本において医療機器の大規模な展示会が開催されない理由の1つを、医学系学会の併設展示が数多く存在することにあると考えていました。それがヘルスケア分野の独自の企業展示を、代行する形で行われています。しかし、そこには海外の医療機器メーカーが参加しにくいという問題点があります。さらに、日本の医療機器が海外から見えないというデメリットにもつながっています。私はずっと以前から、国内のヘルスケアの技術や商品が世界に向けて紹介できるような展示会が必要だと感じていました。
10年ほど前の話ですが、大阪大学大学院医学系研究科教授の澤芳樹先生がドバイへ出張した折、ちょうど『Arab Health』が開催されていてその盛大さに驚愕されたそうです。衝撃を受けた先生は、こうした展示会が日本でも必要だと考え、大阪コンベンション協会に話を持ちかけました。それが『Japan Health 2025』開催のスタートです。日本のヘルスケア業界に多大な影響力を持つ澤先生の後押しもあって、弊社はこのイベントに取り組むことにしました。
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