−−いきなりですが、先生は日本の医療DXの遅れをどのようにお考えですか。
【美代】医療DXには2つの視点があります。1つは医療情報のデジタル化。大学病院を中心とした大規模医療施設ではかなり進んでいますが、中小規模の医療施設においてはそれほど進んでいない。こうした現状の二極化があります。
もう1つは日本の医療システム全体としてのデジタル化です。こうした広く大きな意味での医療DXは残念ながらほとんど進んでいないと言っていいでしょう。情報のデジタル化が進んでいる大規模医療施設が複数あるにもかかわらず、それを繋いで1つの大きな医療ビッグデータを作るなどの活用がされていない。日本では国内の病院を結んだ水平展開が行われていないと思います。
−−医療データの利活用ですね。日本ではなぜそれができないのでしょうか。
【美代】医療機関の最大のインセンティブが診療報酬だからだと思います。データをデジタル化しても診療報酬の加算とはなりません。
一方、米国の診療報酬制度は、病名によって診療にかかる金額が決められている診断群別包括支払い方式です。診療報酬内において最低限の医療行為で患者が治ったら、それだけ利益が大きくなる。つまり、他の病院で行った検査データがそのまま使用できれば、同じ検査を行う必要がないのでその分が利益になります。
しかし、日本の場合は外来の診療報酬は出来高制度なので、検査を行えば必ず収入となります。つまり、横に繋いで検査データを共有してしまうと、医療施設の収入が減ってしまう。医療DXを進めるためにはこうした医療制度を根本的に変えていく必要があります。この解決はなかなかの難問ですが、医療DXによる施設間の情報共有化が、医療効率の向上に繋がることを国にしっかりと認識していただきたいと思います。