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日医工ジャーナル ダイジェスト

Vol.47 No.414 2020.10-2021.1 ダイジェスト

コロナ禍後の社会変化に医療機器業界はいかに対応すべきか
〜デジタル、IT、AI 分野との連携の重要性〜

竹上 嗣郎氏
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
医療機器・ヘルスケア事業部長
廣瀬 大也氏
経済産業省 商務・サービスグループ
ヘルスケア産業課 医療・福祉機器産業室長
菊地 眞氏
公益財団法人 医療機器センター 理事長

 

―コロナ禍によって医療材料や医療機器のサプライチェーンが危機に陥り、一部急激な需要増加に対応できませんでした。医療機器製造業のサプライチェーンの確保、イノベーションをどのようにお考えでしょうか。
【廣瀬】コロナ禍が始まった時、AMEDに在籍していましたが、人工呼吸器の支援を行うため経済産業省との併任がかかりました。人工呼吸器をはじめとした治療機器の国内の自給率が非常に低いことは認識していましたが、コロナ禍が直接サプライチェーンへ大きな影響を与えていることを知りました。
 競争力のある製品を国内外で展開し、ある程度国際的なシェアを確保して開発費を捻出する、そうしたサイクルを構築しないと、今後供給ラインは保てないと思います。しかし、部品をすべて日本で賄うのは困難ですから、海外からも調達できる関係を築いておくことは必要でしょう。
【竹上】私は2010年から2011年にかけて、経済産業省の医療・福祉機器産業室長でした。3月11日の東日本大震災が発生した時には、医療機器メーカーの工場が被災して稼働停止となり生産中止、物流の停滞で調達できないという事態に直面しました。その際、非常時の医療機器の調達システムの見直しを行いました。しかし、今回、サプライチェーンなど部品調達で問題があったとすれば、東日本大震災の教訓が生かされていなかったということで私自身も反省です。どうしてサプライチェーンが危機に陥ったのか、急激な需要増加に対応できなかったのか、厳しく検証し、見直す必要があると考えます。

「2021年 新春スタートの集い」鼎談企画
医療機器の国際展開をより拡大させるために

武見 敬三氏
参議院議員
松本 謙一氏
一般社団法人 日本医療機器工業会 理事長
矢野 守氏
特定非営利活動法人 海外医療機器技術協力会 専務理事


―近年アジア諸国の経済発展が著しく、様々な医療ニーズが高まってきています。武見先生はそうしたアジア諸国に対して、医療機器の輸出拡大のポイントをどのように捉えていらっしゃいますか。
【武見】アジア各国でもこれから高齢者人口が急速に増える時代に入っていきます。高齢者を対象としたさまざまな保健医療、介護福祉サービスのマーケットは確実に拡大していくでしょう。アジア諸国の医療ニーズを調査し、官民が連携して拡大するマーケットに日本企業が参画していけるような仕組みを作ること、これを戦略的に実施する体制を構築することが重要です。基本的なコミットの1つになると思います。
 その中で人材育成が大事なポイントになるのは明らかです。さらに、人材育成による国境を越えた連携を目標とする。連携は“隠れたマーケット”です。それが日本にとって新しいシーズとなり、アジア各国において新しい医療サービスが生み出されていくでしょう。
―先生はアジア各国に対し、日本の医療機器や医薬品の規制への理解を進めることが必要とおっしゃっていますね。
【武見】アジア各国の規制は基本的に欧米志向です。日本は、レギュレーションの在り方をアジア諸国の中で主体的に作るための努力をしなければなりません。そこで、私が委員長を務めている官民連携のグローバルヘルスのプラットフォームである「グローバルヘルスと人間の安全保障運営委員会」に「アジア医薬品医療機器規制調和推進タスクフォース」を作りました。医薬品から試みたところ、規制当局との連携、国際的な臨床共同治験のネットワーク作りなどが可能であり既に30億円が補正予算で組まれています。次に医療機器・医療器材においてレギュレーションでの新たな開拓を考えています。規制のルール作りが共有されれば、隠れたマーケットを作り出すことになります。

医療従事者の勤務環境改善から見えてくる
未来医療機器の可能性(後編)

酒井 一博氏
公益財団法人 大原記念労働科学研究所研究主幹
伊藤 雅史氏
等潤病院 理事長・院長
吉川 悦子氏
日本赤十字看護大学・准教授
根本 大介氏
デロイト トーマツ グループ シニアマネジャー
坂本 郁夫氏
パラマウントベッド株式会社 常務取締役

―医療従事者の労働環境改善をテーマとして取り上げるきっかけとなったのは、医師の働き方改革でした。これについては2024年の施行が決まっていますが、伊藤先生は医師の残業問題についてどのように思われますか。
【伊藤】これは病院管理者の決断だと思います。「もう帰れ」と言うしかない(笑)。自己研鑽という面もあるので、どこまでを労働とするのかという課題はあります。一般の方でも自分のスキルアップや専門資格を取得するために努力することはあるでしょう。通常は自宅でされると思います。医師の場合は院内で業務を抱えながら自分の時間の中で行うことが多い。もちろん在宅扱いにするとか、いろいろな方法を考えることはできます。とにかく一定のルールを作って「やれ」と言うしかありません。
―ルールを作る際、医師の仕事をどこまで標準化できるかが問題になると思いますが。
【伊藤】そこは管理者の判断です。職種や業務内容により違いがあると思いますが、労働条件や勤務体制を作るのは各医療機関に任されています。どのようなルールを作るのか、そこは管理者の決断にかかってきます。
【酒井】医師の働き方については教育との関係が大きいと思います。両親が医師でその背中を見て育ったという方もいれば、大学進学を考えた時点で医学部を選んだ人もいます。しかし、学生は大学の医学教育を受けていく過程で医師がどのような存在なのか知ることになります。高度な専門性にかかわる職業を選択した場合、寝ずに頑張って、技術習得に全てを傾けていくという教育もあるでしょう。しかし、こうした教え方の中には、どのように働くのか、自分の生活をどう確保するか、家族とどう過ごすか、など一般的な日常生活が考慮されていません。学生から社会人へと向かう大事な時期にこれらを学んでいないということが、今の問題につながっているように思えます。
【根本】通常、医師1名に対して複数のコメディカルが付いてチーム医療という形で治療を行いますが、患者さんを複数の医師が担当する複数主治医制度が勤務環境改善に貢献しているという報告があります。これは医師一人の責任で仕事を抱えるのではなく、医師同士の情報連携という形で進めていくことを業務方針としており、重要な取り組みではないかと思います。情報共有のためにITが欠かせないでしょう。

2021 年新春スタートの集い
「日医工から発信する医療機器のトランスフォーメーション」

例年の賀詞交歓会に代えて全面オンラインで開催

迫井 正深氏
厚生労働省 医政局長
鎌田 光明氏
厚生労働省 医薬・生活衛生局長
廣瀬 大也氏
経済産業省 商務・サービスグループ
ヘルスケア産業課 医療・福祉機器産業室長

 

例年開催している日医工の賀詞交歓会は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、全面オンライン配信による「2021年新春スタートの集い」という形式で開催した。Webによる開催は昨年のハイブリットで行われた定時社員総会に次いで2度目、全面オンライン開催は日医工としては初めての試みとなる。当日の内容は、1月12日から2週間オンデマンドでも配信された。
 1月7日午後3時より開催し、冒頭、松本理事長のライブ配信による挨拶で始まった。
 「年頭に当たり、医療機器産業の当面のビジョン、行動指針を申し上げたいと思います。『革新的な医療機器の創出に向けて』をテーマとして、キーワードは「イノベーションの加速化」、「医療機器の安定供給」、「DX(デジタルトランスフォーメーション)による医療データの利活用」、「国際展開」の4つとなります。その中でも「イノベーションの加速化」についてご説明いたします。
 イノベーションとして昨今、特に注目されているのが、新興国のニーズにより自国で開発が行なわれるリバース・イノベーションです。新興国で開発された医療機器が先進国で使用されるといった事例がいくつかあり、従来の先進国による革新的医療機器の開発とともに、こうした方向性のチャレンジが非常に重要になってきています。
 イノベーションについては日本経済新聞の論説で示唆に富む話が掲載されていました。ニューノーマル時代における企業のイノベーションは3つあるという内容です。1つはデジタル・イノベーション。2つ目は人のイノベーション。日本企業はこれまで人の同質化を求めてきましたが、現在はダイバーシティ、多様化した人材が必要となってきている。3つ目はSDGs(持続可能な開発目標)に基づく環境重視のイノベーションです。
 これからは日本も一つの方向でイノベーションを推進すればいいという時代ではないと思います。日医工においてもニューノーマル時代のイノベーションをさらに進めていく所存であります」
 続いて、来賓挨拶として厚生労働省と経済産業省の担当の方々より事前収録したコメントが配信された。