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日医工ジャーナル ダイジェスト

Vol.46 No.410 2019.10-2020.1 ダイジェスト

これから必須となるコンプライアンス重視の企業戦略
利益追求の時代からガバナンス重視の時代へ

三村 まり子氏
西村あさひ法律事務所 弁護士

―医療機器業界におけるコンプライアンスの必要性についてどのようにお考えですか。
 医療産業における企業倫理は、医の倫理と同じ「ヘルシンキ宣言」(1964年に世界医師会によって作成された人体実験に関する一連の倫理的原則)に基づいています。医療は基本的に人体実験を行いながら発展していく業種ですので、医療従事者自身の確固たる倫理観が不可欠です。薬剤はある意味毒にもなり得るわけで、その部分は肝に銘じておかなければなりません。人の生命と健康を守るための産業であることを強く意識することが必要です。
―購入費が公的資金による償還価格であることも必要性の理由でしょうか。
 公的な資金から売り上げをあげているのは重要な点の1つになります。ただ、それをあまり強調しすぎると自由診療ならばいいのかという話になります。新しい医療技術を薬機法や治験などのルールに基づかずに、自由診療を行っている方がもっと怖い。コンプライアンスと公的保険の関係は重要ですが、強調しすぎると間違ったメッセージになりかねません。
 公的資金という観点の重要性という意味では、以前、公的資金の支出が問題となった「立会い」基準を例に挙げることができます。日本は諸外国より流通費用が高いと言われており、「立会い」による過剰サービスを価格に乗せるのがその理由ではないかとされていました。公的資金の無駄遣いになっている立会いを規制するため、この基準が公正競争規約に追加されました。もう1つは公的資金で成り立っている産業だから、公務員と同じような倫理観が必要であるということですね。

日本医師会が発する税制改正要望を聞く
   

小玉 弘之氏
公益社団法人日本医師会 常任理事

―昨年8月、日本医師会から令和2年度の税制改正要望が発表されましたが、まず、平成31年度における税制改正の結果状況について伺いたいと思います。
 平成31年度税制改正の中で大きかったのは、個人立医療機関に対する事業承継税制が創設されたこと、もう一つは設備投資への支援措置の拡充でした。地域医療構想実現のための建物および附属設備と、医師・医療従事者の労働時間短縮に資する器具・備品への特別償却制度です。実際に国が考えているのは配置の効率化です。各医療機関の医療機器や検査機器を集約化して無駄をなくすことが主な狙いで、そのため、これらの制度の新設とともに、高額医療機器特別償却制度の延長が認められたのだと思います。
―医療機関における仕入税額相当額(控除対象外消費税)についてはいかがでしょう。
 この問題は平成元年消費税導入時や平成9年の税率5%引き上げ時に適用された、不適切な計算式から端を発しています。日本医師会としては基本診療料の配点の精緻化、補てん状況の検証などによる、必要に応じての見直しを基本スタンスとして要望し、令和元年10月の診療報酬改定で、その内容が実現しました。しかし、病院における設備投資の場合は相当の消費税負担があり、さまざまな検討が必要です。キャッシュフローなどにおいても難しい部分があるので、今後の課題として重要だと認識しています。
 この件に関しては平成元年に消費税が導入されて以降、30年かかっても何ら根本的な解決を見ていません。しかし、今回は一度、「解決」という言葉を使って政治家、官僚、そして我々医師会も汗をかいてこの結論に達したことを示す、ということになりました。つまり、まずは「解決」という言葉を使ってこの問題を整理する。しかし、これは同時に解決のための新たなスタートラインに立つためのきっかけとなっています。先ほどの病院の設備投資の消費税を考えた場合、本当に抜本的な解決策があるのかどうか、議論しなければならないでしょう。

国内R-SUD市場への期待と課題
「再製造ラッソー 2515」が R-SUD承認第1号に

佐伯 広幸氏
日本ストライカー株式会社 代表取締役社長
単回医療機器再製造推進協議会(JRSA) 副理事長

 「再製造ラッソー2515」に対して、医療機関の反応は総じてポジティブです。医療機関側からすれば、従来、使用済みの単回使用医療機器(以下「SUD」)は処理費用を払って廃棄物業者に引き取ってもらう医療廃棄物でした。しかし、これからはR-SUD企業に“買い取って”もらうことになります。マイナスだったものがプラスに転じるわけですから好意的に考えるのは当然ですね。
 しかし、一方でR-SUDに消極的な医療機関もあります。理由の1つとしては、これまでのSUDを廃棄していた仕組みを、R-SUD企業の収集にまわす仕組みに変更しなければならないこと。もう1つの理由としては、医療機関側におけるR-SUDに対する認識が不十分であることです。新しい仕組みに変更することに消極的な背景には、それが結果的に自院の経営効率化につながるという理解が不足しています。
 これは単に弊社が克服する課題というだけではなく、R-SUD事業を展開しようとする企業全てが抱える課題であり、それにはやはりJRSAのリーダーシップが必要であることは自明の理でありましょう。
 現時点、国内でR-SUD製品の承認を受けたのは弊社のみですが、JRSAへの加盟企業は順調に増えていっています。近い将来、そうした企業がR-SUD市場に参画してくれると期待しています。弊社としては、当然、これから「再製造ラッソー2515」が市場で広く行きわたることを望んでいますが、JRSAの副理事長としては、マーケット全体が拡大し、医療機器の世界においてもサステナビリティについて真剣に考える人が増えてきてほしいと強く願っています。

日医工「副理事長会議」が始動
新たな会議体組織『日医工ビジョンコミッティ』を牽引

 2019年11月19日、日医工会議室において武井和之、増田順、石塚悟、林正晃の副理事長4氏が集まり、初めての「副理事長会議」が行われた。副理事長会議の最大の目的は5つの「日医工ビジョン」の具体化にあった。①医療機器の法制度、産業振興における行政への積極的な発言・提案、②常に進化し、改良改善を重ねる医療機器の安心・安全の確保、③これまでにない製品の開発、マーケット拡大のための医療機器開発事業化をサポート、④日本の医療機器を普及させるための海外展開の促進、⑤高い企業倫理に基づいた公正な事業活動の推進を実現するために日医工全体で実際的な活動を展開する、といった5つのビジョンに基づいた活動をどのように行っていくのかを検討する。
 日医工ビジョンを実現するためには、まず日医工全体にビジョンの理解と浸透を図ることが最重要課題であり、そのためには理事会の理事と委員会の委員長がしっかりビジョンの理解と認識を図らなければならない。そのために今回、副理事長を中核に置いた新しい体制「副理事長会議」を設置した。4名の副理事長は「日医工ビジョンコミッティ」という会議体を担当する。会議体は各委員会の管掌理事ならびに委員長が構成メンバーとなり、担当ビジョンごとに2人の副理事長が主・副担当となる。コミッティは4つあり、各委員会はそのどれかに所属する。